学籍がフリースクールになる? 不登校元当事者が見る議員立法
前から「不登校新聞」で話題になっていたフリースクールをめぐる議員立法の記事が、一般紙にも大きく掲載されました。
わたしが不登校の当事者だった頃から、もう25年、四半世紀です。
ここまで来たフリースクール関係者の長年の取り組みに敬意を表しつつ、初めてこの話題を知った人への橋渡し記事を書きます。
フリースクール議員立法の報道まとめ
超党派の議員連盟は27日、総会を開き、不登校の子どもの学びを支援するため、フリースクールなど学校以外の教育機会を義務教育制度に位置付ける「多様な教育機会確保法案」を、議員立法で今国会に提出することを決めた。今後、条文などの具体的な法案作成作業に入る。ただ、自民党内には「義務教育は学校が担うべきだ」との反対意見も根強く、実現には曲折がありそうだ。
学校教育法には就学義務規定があるが、一定水準の教育を受けさせれば保護者が就学義務を果たしたとみなし、学校教育法の改正は求めない。自民党の馳浩衆院議員は総会で「国と自治体は多様な教育機会を保障するべきだ」と述べた。(共同通信)
フリースクールでも義務教育認定=不登校対策で法案 超党派議連
超党派の議員連盟は27日、不登校の小中学生が「フリースクール」や家庭で学習した場合でも義務教育を受けたと認める「多様な教育機会確保法案」(仮称)の素案をまとめた。保護者が地元の学校などの助言で「個別学習計画」を作成し、市区町村教育委員会が計画を達成したと認めれば、高校の受験資格を与える。議員立法として今国会に提出する方針。文部科学省によると、不登校の小中学生は全国で約12万人に上る。不登校児らの教育機会をどう確保するかが課題となっており、学習指導を行う民間のフリースクールへの支援策を検討している。
素案では、保護者が学校やフリースクールなどと相談して学習計画を作成し、市区町村教委に申請。教委は「教育支援委員会」で審査した上で計画を認定する。その後、計画に基づく学習内容を履修できたと判断すれば、高校受験資格を与える仕組み。国や自治体に対しては家庭への経済支援も求めている。
また、小中学校時代に不登校で十分に学べなかった人を支援するため、「夜間中学」の設置などで学習機会を確保することを自治体に義務付けることも明記した。
[時事通信社]
ちょっと長いのでリンクのみですが、毎日新聞の記事は、フリースクールの草分け東京シューレの代表奥地圭子さんにも取材されていて独自性があります。
>「学校外で義務教育」法案:不登校対策、転換に期待 - 毎日新聞
ざっくり要約します。
- 不登校児(=「病気」「経済的理由」を除く年間30日以上の長期欠席者)は、小中学生で約12万人。
- 不登校児の教育機会を確保する為に、民間のフリースクールへの支援策を検討中。
- 保護者が「個別学習計画」を作成し、市教育委員会が審査して認定すれば、フリースクール及び家庭学習での保護者が就学義務を果たしたとみなし、高校の受験資格を与える。
- 公立小中学校に通う子と違い民間のフリースクールに通うには経済負担が大きいので、家庭への経済支援策も求められている。
こんなところでしょうか。
そう、上にも書いていますが、義務教育の義務は子どもが果たすものではなく、保護者が果たすものです。
昔、子どもに仕事をさせる為に学校に通わせない(通わせられない)保護者が多かった時代に、一定レベルの教育を受けた国民を育成する目的でできたのが義務教育です。
子どもが学校に行かなきゃならない義務ではないのです。
子どもが行けない、行きたくないというのを無理にでも行け、という義務ではないのです。
ということを、フリースクールに入ってから学びました。
1990年当時のフリースクール事情
わたしが札幌にできたばかりの「フリースクールさとぽろ」に通い始めた頃、まだフリースクールという言葉はまったく認知されていませんでした。扱いとしては私塾です。
すると、どんなことになっていたか。
- たとえ毎日通っていても学校の出席日数にならなかった
- 中学校の通信簿は「オール1」だった(当時は比率方式だったので、自分がオール1とっていれば、学校行ってる子の1とる率が下がっていいよねって論法もあった)
- 安い「通学」定期は買えず、中3なのに「通勤」定期を買っていた
- 月謝だけで運営されていたので、月3万円くらいかかっていた
- 経営は不安定で、よく移転したりスタッフが辞めたりしていた
- 学歴にならないので、3年間通っても履歴書に書けなかった
- 不登校児が卒業できるかは、校長判断だったので、学校から「出席しないと卒業させない」と脅される子もいた(保護者とフリースクールから抗議して卒業を認めさせた)
なお、「フリースクールさとぽろ」は数年前に解散したそうです。
問題も多々あったけれど、多くの仲間と出会い、同じ不登校児でも多種多様な彼らと過ごす中で、「学校に行けない自分だっていい」と、自分を認めて立つことができるようになりました。
現在は、在籍する学校の校長の裁量で出席扱いが認められたり、その場合には「実習用通学定期」という通学定期と同じ割引率の定期券が買えるようになっています。
こちらの解説が詳しくてわかりやすいです。
>不登校・フリースクール情報 | フリースクール全国ネットワーク
フリースクールに行けるのは恵まれた子?
「フリースクール行ってた? いいなぁ、自分も学校嫌だったけど、そんな金かかるとこ行けなかったよ」
と、同世代の子に言われたことがあります。
たしかに、公立校に通う子に比べて、お金はかかっていましたね。
うちは父が教員、母が専業主婦でしたが、家計はギリギリでした。
母が働けなかったのは、わたしや弟たちが学校に行かなかったことも大きかったでしょう。
弟は小学校低学年から不登校でしたから、1人で留守番させておくわけにもいきませんからね。
今のわたしたち夫婦が、息子をフリースクールに通わせられるか、どちらかが仕事を辞めて自宅学習させられるか、と言えば、相当に厳しい。
親が非正規雇用など生活するだけでも苦しい家庭も増えて、終身雇用、昇級・ボーナス有りが基本になっていた25年前とは時代が違います。
それに、弘前市内はおろか、青森県内にフリースクール無さそうなんですよね。
通信制高校とかはありますが、小中学校で学校に行けない子はどうしているんだろう。
来年から息子も小学生なので、親としては情報集めておきたいところです。
友だちから「そんな悲観しなくても」と言われますが、悲観じゃありませんから。
都会の経済的に恵まれた子しか行けないフリースクールでは困るのです。
不登校は特定の子どもに特有の問題があることによって起こることではなく「誰にでもおこりうる」と平成4年に文科省の報告にも記載されている通り、その子が異常だったから、親の教育が悪かったから、不登校になるわけではありません。
では、学校に行かない子が、社会に出て行く時の力をどう身につけていくのか。
という課題に対しての、取り組みの1つが今回の議員立法です。
内容を見ていくと、フリースクールに直接助成金を出すより、保護者にバウチャーなどフリースクールに通う為の経済支援をする方向のようですね。
学籍も学校へ置かなくてよくなる?
ネット上のニュースで発見できないのですが、自宅で購読している東奥日報7面にこう記載されています。
保護者が作成した「個別学習計画」を市町村教委が認定すれば、子どもは学校に行かなくてもよく、学籍も学校に置かないことになる。
え、学籍も??
これには驚きました。「○○小・中学校」ではなく「フリースクール○○」と学歴に書けるようになるのでしょうか。
学校教育法を変えないまま、議員立法でそこまでできるとすごいですね。
もちろん反対意見も出ています
同じく東奥日報より引用
議連の法案に対し、自民党内の一部には「義務教育はきちんと学校が引き受けるべきものだ」との反対意見は根強い。
休み明けに「学校へ行きたくない」ことを理由に自殺する子どもが0になってから言って欲しいですね。
藤田英典共栄大教授(教育社会学)は「不登校への支援策としてではなく、受験競争を有利にするために、塾産業や保護者が制度を悪用する可能性も考慮する必要がある」と指摘している。
そう言えば、人口7000人の町で不登校していた頃、月に1度、札幌の病院まで片道2時間近くかけてカウンセリングに通っていたのですが、
「あいつは、札幌の予備校でいい高校へ入るための受験勉強をしている」
なんて、根も葉もない噂が流れていたそうです。
不登校する前はいわゆる優等生でしたからね、そんなイメージが残っていたのでしょう。
上の教授の指摘に対しては、悪用されていたら、だからどうなるの?
それだけ受験に偏った社会の枠組みになっている方が問題じゃないの?
と返しておきます。
もっとも、25年前と違って「良い大学に入れば良い就職ができて一生安泰」なんて夢見てる人は、ごく少数だと思いますが。
最速で2017年度から導入?
実際に成立して運用されるまでは長い時間がかかりそうです。
2017年度の制度化を目指しているそうですが、検討課題はまだまだ多いです。
- どれだけの「個別学習計画」を保護者が作るのか
- それを認定する教育委員会の基準はどうなるのか
- 学費無料の公立校に比べ、フリースクールに通う場合の学費はどれだけ国が支援するのか
- 戸塚ヨットスクールや、真夏のコンテナに子ども2人を監禁して死なせた「風の子学園」のような施設を線引きできるのか
法案作成に関わる馳浩衆院議員が「国と自治体は多様な教育機会を保障するべきだ」と語っています。
元教員で、プロレスラーとしてもクレバーで政治力の高かった馳議員、どのように舵取りしてまとめられるか期待して見ています。
興味がある人は「不登校新聞」を読もう
以前にも紹介しましたが、不登校・ひきこもりの専門紙「不登校新聞」では、かなり前からこの話題が掲載されています。 編集本部がある東京シューレにも、安倍首相が視察に来たりしています。
>平成26年9月10日 フリースクール「東京シューレ」視察 | 首相官邸ホームページ
元当事者やフリースクール運営スタッフで作る専門紙ですから、生の声や情報が充実しています。 郵送されてくる紙版と、ネットで読めるWEB版があります。どちらも月額820円。わたしはWEB版を購読しています。
無料のサンプルページはこちら→試し読み - 不登校新聞『Fonte』
まだ20代の頃に寄稿もしました。こちらは、当ブログに掲載しています。
>「4月下旬の胸騒ぎ」(再掲)不登校新聞48号寄稿
最近では不登校アルバイトマニュアルのシリーズが面白いです。わたしも色々アルバイトして試行錯誤したなぁ。
>不登校専用アルバイトマニュアル/ 不登校新聞
どこにも行かない自由だってある
追記です。
たとえ、フリースクールであっても、カリキュラムなどがなく居場所としてのフリースペースであったとしても、それが必要になるのは当事者が「外に出たい」「人と話したい」「友達が欲しい」と思ってからです。
みんなが通っている学校に行かない、というのは、それだけで当事者本人には大きなプレッシャーがあります。
誰もがわがままや、ありのままの自由よーと歌いながら休めるものではありません。
まずは自宅で、自分の一番居心地のよい場所で、ゆっくり休んで気力と体力を回復することです。
傷も癒えていないうちから、また戦場に出ることはないのです。
フリースクールに通いやすくなることを期待する一方で、親や教育機関が無理矢理どこかへ連れ出す ことのないように願います。
不登校元当事者のわたしに話しを聞きたい、話しを聞いて欲しいという要望がありましたら、info☆saitoumikako.com(☆を@に変えてください)までご連絡ください。 可能な限り対応いたします。
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