50周年の「弘前工芸協会展」実行委員会に行ってみたら思ったのと違った話し[PR]
やたらに暑くなった5月某日、さいとうは緊張しながら弘前市在府町にある「弘前こぎん研究所」を訪れました。
ここは建築家・前川國男氏のデビュー作と言われる建物でもあります。
わたしは月に1度カフェに集まって、津軽こぎん刺しをそれぞれ好きに楽しむサークル「みんなのこぎん」を主宰し、入門ワークショップを行い、こぎんフェスにもサークル展示で参加していながらも、まだこれまでこぎん界の大御所であるこちらに来たことがなかったのです。
北海道から数年前に来て、気楽に趣味としてこぎん刺しを楽しんでいる身として、一度は行きたいと思いながらも、わたしなんかがフラリと行ってもいいのだろうか…。
なかなか行けなかったばかりに、勝手に心理的なハードルが高くなっていたのですが、ひょんなことから「弘前こぎん研究所」の建物を訪ねることになりました。
それは、「今年50周年を迎える弘前工芸協会展の取材」です。
伝統ある津軽の手工芸、その技を研鑽する工芸作家たちの集い……ますます緊張が高まります。
そうしてドアを開けたのですが、工芸協会の様子は事前に思っていたイメージとはまったく違ったのでした。
工芸協会運営事務局に聞く「弘前工芸協会とは?」
建物に入ると入口にこぎん刺しの着物や歴史を伝える展示、奥に進むと「前川國男プチ博物館」と銘打たれた展示スペースもあります。
展示施設でもあり、弘前こぎん研究所の工房であり、弘前工芸協会の活動拠点にもなっている歴史ある建物。
その奥には……書類がひしめく事務所があり、3人の工芸協会運営事務局の方々が打ち合わせをしているところでした。
この2019年、弘前工芸協会は活動を始めてから50周年を迎えるそうです。
Webサイトに載っている弘前工芸協会のあゆみによると、創立された1969年は人類が初の月面着陸を成功させた年、そして甲子園で青森県の三沢高校が延長18回引き分け再試合をした年とのことです。そこ、並ぶんだ…。
さて、今日はこちらの御三方に工芸協会の活動を50周年の展示についてお話をうかがいます。
- 弘前工芸協会理事長 武田孝三さん(KEIZET DESIGN)
- 50周年弘前工芸協会展実行委員長 中川俊一さん(必殺ねぷた人)
- 弘前工芸協会事務局長 成田貞治さん(弘前こぎん研究所)
50周年を迎えた弘前工芸協会展
斎藤
今日はよろしくお願いします。今年は弘前工芸協会50周年ということですね。
武田さん
50周年ってやっぱりけっこう長くて。創立メンバーは木村産業研究所の木村文丸先生のお一人だけに。次の50年につなげるためにコツコツとやっていくんだろうけど。節目というか、リセットするような気持ちでやっていければいいかな、と。
斎藤
年号も令和に改まって初になりますね。
中川さん
そう言えば、そうですね。
50周年なんだからと言っても展示内容をスペシャルにするよりも、次に向けて弘前工芸協会という任意団体ながら50年やってる団体があること、弘前が工芸盛んな街だということを市民に明らかに認知されればいいなと、実行委員長であるわたくしなどは思っている次第であるのでございます。
…間違ってないですかね?
武田さん
うん、間違ってないよ。
成田さん
それに加えて、初の試みで広報ひろさきに入れるというやつが…
中川さん
あ、そうですね。
今、2階でやってるのが「広報ひろさき」の毎戸配布に工芸協会展のチラシを入れてもらうという、その仕分け作業をやってます。
武田さん
まだ若い人でも「こういう協会があったら入りたいな」と思う人に知らせたい。それで表は工芸協会展の案内、裏は工芸協会の歩みになっています。
作家だけではない工芸協会員
斎藤
工芸協会にはどうやって入れるんですか?
中川さん
入会資格は、会員二人の推薦があればいいです。わりとアットホームな、ファミリー感が高い組織ですね。
武田さん
工芸作家ではない方もけっこう入っていて
斎藤
そうなんですか?
中川さん
作る人だけじゃなくて、見る人って必要ですよね。工芸以外の方も入ってらっしゃる会員が多くて、30パーセントくらいはそういう方。建築家で、JR弘前駅の建築設計をした千葉さんって方が、工芸協会の会員だったりします。
武田さん
趣味の方もいるしショップの方もいる。商工会議所の人や学校を定年になって入っている人も。
斎藤
あ、そうなんですね。てっきり作家さんばかりいらっしゃるのかと思ってました。
中川さん
工芸作家だけのプロ集団ではなくて、幅広く色んな人が入っているんです。
弘前工芸協会の活動って?
斎藤
ふだんはどのような活動をされているんですか?
武田さん
個々の(制作)活動ですね。基本的には個々の活動が大事だと思っているので…
中川さん
藤田記念庭園の匠館で「弘前工芸舎」というユニットを組んで、会員の作品を、月1回6名くらいで入れ替えしながら常設展示しています。
斎藤
あ、子どもと匠館のカフェに来て、子が食べている間に展示を見せていただいたことがありました
中川さん
あとは、バーベキューとか忘年会・新年会とか飲み会多いですね(笑)
武田さん
今も上に豚汁があるけど、忘年会なんかも持ち寄りで料理人の方も会員にいるので、けっこう集まるね。
異業種の交流から協業も
斎藤
色々な人が集まって交流する中で、何かアイディアが生まれたりとかもあるんですか?
武田さん
それはフツフツとわいていると思う。人と付き合うと、やはりそこから何か生まれるわけだから。
そういう世界にいることで刺激を受けて、そういうことで個々の活動をやっていければ、すごくいい。
それぞれ個々が立派になっていくと、必然的に協会も立派になっていく。協会が引っ張るということじゃなくてね。
成田さん
事務局としては「作ってない人」もいるから運営が楽なんですよ。これが「作っている人」ばっかりだと、「わたしが親分」の人がいっぱいになって意見がまとまらなくなる(笑)
中川さん
ねぷた作家の僕が工芸協会展の実行委員長やってるくらいですから懐が深い、間口が広い(笑)。木工の人が漆の人に「ちょっとこういうところに漆塗って欲しい」と声かけたりとか。
武田さん
この前だと、市民会館の改築の時の演台とかドアノブとか、工芸協会で受けて木工作家でチーム組んで、漆作家でチーム組んで、それをデザインしてプロデュースするのが工芸協会という形でやりました。
中川さん
JR弘前駅の壁面オブジェありますよね。あれも全部うち(工芸協会)で。さっき話しに出た建築家の千葉さんがJR弘前駅の設計をされて、そこに地元の工芸作品を、ということで、武田さんがデザインしてわれわれが総動員でそれぞれの技を使って作りました。
中川さん
あの取付の時に用意したヘルメット、今でも使ってますね(笑)
成田さん
役所からも工芸協会という任意団体に対してだと、公平性があって発注がしやすいんですね。
武田さん
有楽町のひろさき移住サポートセンター東京事務所の壁面とか、市役所改装したときは市長室の壁面とか、2ヶ月前は空港の貴賓室の中の仕事とか、そういうのも協会であったり協会メンバーでやってるんですよ
斎藤
そんなにあるんですね!
中川さん
弘前にとどまらず、外での仕事も増えてきていますね。特に若い世代とか。50年やってるならではですが、二世・三世の会員が出てきてます。
武田さん
二世は真面目だよね。
中川さん
一世はあんなに奔放なのにね(笑)
20代の若手ねぷた師が工芸協会に入会したら
斎藤
中川さんも一世ですよね(笑) ねぷた師で工芸協会にはどのように入られたんですか?
中川さん
わたしは東京から帰ってきた26歳の時に、ある人から「ねぷたで飯は食えない」と言い切られて(笑)
斎藤
ズバッと(笑)
中川さん
それで工芸協会に紹介されて、「ねぷたのこの部分、あの技をこうすれば作れるな」などと勉強させてもらって、今もこうしているという感じですね。
斎藤
当時最年少だったんじゃないですか?
中川さん
最年少でした。なんか一個作るたんびに「ちょっと持って来い」と言われて、持って行ったら作品をテーブルに置いて酒の肴にされて「ちょっと額がさー太いんだべな」と辛口ないじりを受けていました(笑)
まぁ、わたしも気持ちよくいじられてましたね。
武田さん
悪意が無いんだべな。
中川さん
それで、40周年の工芸協会展の時に若手をと言われて、32歳で実行委員長をやらせてもらいました。あれから10年経って若者はいいおじさんになり、また50周年の実行委員長をやらせていただきます。
50周年弘前工芸協会展の見どころ
斎藤
今回50周年の弘前工芸協会展、見どころを教えてください。
中川さん
前理事長望月好夫さんが、ブナコという工芸ジャンルを確立した方なんですが、今年3月に大往生されまして。けっこう大物の遺作があるので回顧展示という形で公開します。
斎藤
弘前公園前のスターバックスでも使われているブナコですね。あの下でこぎん刺ししたりしています
中川さん
それと、大抽選会!ハズレがございません!
最終日とかではなく、販売している作品を2,000円以上買われた方が、その都度抽選を引けます。
作家の作品が景品になっていて選べるようになっている50周年の大盤振る舞いの目玉企画です!
武田さん
大分予算をオーバーしとるけどな(笑)
中川さん
あと、10年ぐらいやってるんですけど「野外オブジェ展」というのもおもしろい企画です。百石町展示館の裏、駐車場の敷地の中にちょっとした芝生があります。そこで工芸作家が「持てる技を駆使しているんだけどあまり売る気がないオブジェ」を作って、それをお客様が投票してグランプリを決めます。
斎藤
技術を凝らした売るつもりのないオブジェ(笑)。それはすごそうです。
中川さん
入場は無料ですので、ぜひたくさんの方に気軽に訪れていただきたいですね。
思っていたより気さくな雰囲気でした
伝統ある工芸協会ということでちょっとわたしも身がまえていましたが、異業種の作家さんや応援する方がフラットな目線で共同している様子が伝わってくるお話でした。
この日、市の広報に折り込むためのフライヤーは6万部近くあったそうですが、集まった会員の方々の手作業で午前中にはすっかり終了。
あとは豚汁を食べるだけとなっていました。
ベテランから若い世代の作家さんも入っている弘前工芸協会。
他の工芸とコラボレーションしてみたい、色々な角度からの意見をもらったり、大きな作品づくりに参加したいという方は、まず週末からの工芸協会展や藤田記念庭園匠館の展示を見てみてはいかがでしょうか。
ハンドクラフトファンにとっても、様々な工芸品を直接見たり買ったりできる年に一度の機会。週末は百石町展示館へぜひ。
50周年記念「2019弘前工芸協会展」
- 期間:2019年6月14日(金)~17日(月)
- 時間:10:00~18:00(最終日は16:00まで)
- 会場:弘前市立百石町展示館1階・2階・野外(弘前市百石町3-2)
詳しい要項は弘前工芸協会のWebサイトでご確認ください
【追記】土曜日に行ってきました
こぎん刺しや藍染の作品も。
— さいとうみかこ(うらべっち)@弘前住みブロガー (@urabetti) June 16, 2019
わたしはお囃子につかう鉦のミニチュアイヤリング&ピアスが気に入りました。
ねぷたにつけてくのもよし、お人形に持たせてもよさそう☺️#弘前工芸協会展 pic.twitter.com/w8N9sCvnN3