ソシオデザイン代表・大西正泰さんが語る「街づくりの人類学」
「まちづくりも人の一生と同じように導入期、成長期、成熟期、衰退期があります。
では、弘前市はいまどのへんだと思いますか?」
6月2日、コラーニングスペースHLS弘前にて開催された一般社団法人ソシオデザイン代表の大西正泰さんの講座「街づくりの人類学〜いちばん田舎が面白い〜」で会場に問いかけられた質問です。
徳島県上勝町、人口1500人強の山あいの「葉っぱビジネス」の町。
おばあちゃんたちが和食に添えられる「つまもの」の葉っぱを採取しに山に行く。
その発注情報はIT技術が活用されていて、おばあちゃんたちもタブレットを操作して受注する光景、ニュースなどで見たことがある方も多いのではないでしょうか。
あの葉っぱビジネスの成功で有名な上勝町から来た大西さんの講座は、明るく楽しく、しかし厳しい内容も含むみっちりした内容の2時間でした。
その中で、北海道から弘前に移住して5年目のわたしに刺さった言葉を中心にご紹介します。
いつもの通り、このレポートはさいとうのノートを元にしており、録音・録画等はしていません。 発言の内容、意図が違っている可能性がありますことご了承ください。
隣り合う上勝町と神山町の対比
徳島県の内陸にある上勝町は人口1,594人。
葉っぱビジネスや地ビールなど第一次産業から事業を起こしています。
葉っぱビジネスは1986年から始まり、もう30年以上。
180農家が参加していて、年収1000万稼ぐ方も数多くいるとか。
一方、その隣にある神山町は人口5,551人。(※町のホームページより)
ここ数年でIT企業のサテライトオフィスが50社以上(!)できて、古民家を改修したシェアオフィスがメディアによく取り上げられるようになりました。
隣り合っているけれど、違うタイミング、違う成り立ちでまちおこしが始まった上勝町と神山町の対比。
それぞれの事例はニュースなどでなんとなく見ていましたが、同じ徳島県内、しかも隣同士ということは全然意識していませんでした。
二つの町が取り組んでいること、地元の人と外から来た人のこと、今の課題などが紹介されました。
導入⇒成長⇒成熟⇒衰退、さて弘前は今どこ?
冒頭の大西さんの質問。
まず、スライドにこんな感じの図が映し出されまして(下の図はさいとうのノートから再現)、
まちづくり、地域おこしも、人の一生のようにプロセスがある。
上勝町で言えば、葉っぱビジネスは30年やってきて、それでも人口の減少には歯止めがかからない。成熟期から衰退期に入り、次の手を色々と打ち出しているところ。
神山町は、成長期だけれど、あまりに急激にメディアに取り上げられすぎて、いきなり成熟期に押し上げられようとしているところ。
地域が活発になっていない町では、だいたい導入期で取り組みをやめてしまい、いつまでも同じメンバーが動く、イベント疲れがでてきてしまう。
さて、弘前は?
順に会場から挙手が求められました。
一番多かったのは、最後の「衰退期」。
わたしは、
(えー、ここ数年は色々やってて、それなりにイベントも盛り上げてきてるんじゃないかな。でも、全体には人減ってるしな。でもでも、夫が15年くらい前にUターン就活失敗した時よりよくなってるみたいだし…)
と迷っているうちに挙手しそこねてしまいました。
2日間弘前に滞在して、土手町や代官町のディープなスポットを歩いていた大西さんの印象では、成熟期から衰退期に入っているところ。
しかし、まだまだポテンシャルは高い街、という見立てでした。
大西さんの解説も納得でしたが、会場内の誰がどのタイミングで挙手をしていたか、今の弘前をどうとらえているかが見えたことに興奮しましたね。
衰退期にいる地域の次は?
では、衰退期に入った街はどうなっていくのでしょう?
大西さんは、①V字回復、②ロングセラー、③消えるの3つを示しました。
消えないためには、どうしたらいいのか?
ここから話しは広がります。
以下、自分メモからピックアップ。
- ルールが変わると勝負が変わる
- ルールを変える⇒強み・弱みが変わる(例:ラグビーの15人制と7人制)
- 世界はルールを変更し続けている
- 今は「コストの安い街がいい」ルール&「生産性の高い人が強い」ルール
- 儲けられる町になれ、と言うが、それが幸福になるのか?
- お金があっても幸福感に結び付かない東京
- 資本主義は幸福の再分配が苦手
- 資本主義は一人になることを居心地よくさせる(家に電話1台の時代⇒家族全員スマートフォンの方が儲かる)
このへんで5分休憩です。濃いわ!
都市部に出ていく狩猟・遊牧民タイプ、過疎地に残る農耕民タイプ
後半の話題より特に気になったポイント。
- 幸福度数の高い街を目指す。経済成長から幸福成熟へ。
- 人間の快感3種類①ドーパミン(脳、文明、都市)、②セロトニン(腸内環境、ホッとする、文化、田舎)、③オキシトシン(コミュニケーション、パートナーとあるいはセルフで5分ハグすることで分泌される)
- 人の3タイプ①狩猟民族(野心)、②遊牧民族(好奇心)、③農耕民族(安心)
- ①②のタイプは刺激のある都市部へ出ていく、③のタイプは出ていかない
- したがって過疎地は③農耕民族(安心)の強いタイプが多くなり、施策も安心・安全になっていく
- Uターンがされないのは「仕事がない」よりも、野心・好奇心が満たされないから
ああぁぁぁ、はい、わかりました!
さいとう、遊牧民族タイプです。
元から転勤族の子で移動しながら育っていたし、
20歳で就職した劇団は全国巡演しながら「土の人と風の人がいて、わたしたちは風の人」とか言ってたし、
わたしはどこだってやれるからと夫の故郷である弘前に来てるし、
なんなら、この先だってまたどこへ行くかわかりません。
定住のイメージがわかないので、家を建てたいとか買いたいとかもちっとも思いません。
ブログやっているのも、稼ぎたいからというより、
「こんな面白いことがあったの、見てみてーー!」
という気持ちが原動力です。日々がネタ。
それだわー。遊牧民タイプだったわー。
- コネクター、越境者が入ると、違うコミュニティ間の情報の流通が生まれる
- 情報が流通することで、何をしているか考えているかの翻訳がされる
それだわー、越境して翻訳して紹介しまくってるわー。
そう思ってたのはわたし自身だけではなく、友達からも「さいとうさんのことだと思った」と後で言われました。
都市・田舎、働き方・暮らし方をミックスしていく
さらに地方でいま行われている田舎の暮らしに都市の働き方、都市の暮らしに田舎の働き方をミックスしていく事例が紹介されました。
人口減少している中での上手な都市のたたみ方も。
拡大していく時は中心から郊外へ広がっていたけれど、
減少する時は中央に収束していくのではなく、
少しずつスポンジのように穴が開いていく。その穴(空き地・空き家)をつないで、流れを作って行く。
家と職場(学校)以外のサードプレイス、アジール(避難所)をどれだけ作れるか?
先の図で、導入部で消えていく活動が多いという話しがあったけれど、その試みがどれだけできるか?
失敗してもそれは土壌になっていく。
そうして小さくコツコツと多くの人が挑戦を繰り返す町は、キーパーソンに出会える偶発性が高くなる。
衰退期の後に目指すのはロングセラー商品。
定番が残っていく影に、たくさんの新商品、新しいチャレンジがある。
ロングセラーのまちを作りましょう、と2時間のお話しを締めくくりました。
文化・産業・教育の3つを討ち死に覚悟でやる
会場からの質疑応答で、上勝町の教育について質問があり、
大西さんは「教育の部分は苦悩しています」と率直に言われました。
まちづくりは文化(過去)、産業(現在)、教育(未来)、この3つを、それぞれが討ち死に覚悟で死に物狂いでやる。 産業だけでは先へ続かない。
ここで育った子どもが、また戻ってくる前提で修行の感覚で都市へ行くほど、地域の問題をよく知っていること。(事例:島根県海士町)
懇親会は3次会まで盛り上がったそうです
講座の後、そのままHLSでワンコイン懇親会。
さらに、かだれ横丁で二次会。
さらにさらに、十八番で三次会まで流れこんだそうです。
…わたしは二次会終わりで帰りましたが、それでも午前様でした。
テーマがIT系セミナーの時とはまた違い、よく会っている人ともこのへんは話したことがなかったなぁ、という話題が多くありました。
弘前ビギナーの方に、弘前あるあるを語って移住先輩ぶってみたりして。
二次会では正面に座られた大西さんが、何かとわたしを見透かして「もっと出せ」と煽ってきていたのですが、なんでしょう。そんなにバレバレですかね。
初対面から喋りで全公開できるタイプではないもので、この長文レポートをもってお返しとさせていだきます。
大西さんのお話しでは、「弘前は西(日本)となじみがいい」そうです。
ぜひ、また弘前へおいでください。
……そうか、わたしが徳島に行くという手もありますね。
劇団時代も北海道の最北端から沖縄・宮古島まで行ったけれど、四国は行ったことがありません。
ブロガー的に会いたい人もなぜか四国に多いので、一度は行くべきかもしれませんね。
長文の最後になりましたが、はるばる徳島から交通機関を乗り継ぎに乗り継いで来られた大西さん、この2日間(1日目は学生向け講座)の企画を運営したHLSの辻さん、いい機会をありがとうございました!
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