中卒労働者が「中卒労働者から始める高校生活」を読んだら
Kindle Whitepaperのレビューをした時に少しご紹介した「中卒労働者から始める高校生活」、新刊も出たのであらためてレビュー。
きっかけは、イケダハヤトさんのブログでした。
中卒労働者のアラフォーオカンが読んだ「中卒労働者から始める高校生活」の感想です。
…はっ、自営業者は労働者と呼ばないですか!?
作品のあらまし
まずはAmazonの内容紹介から引用。
内容紹介
工場で働く18歳の片桐真実(かたぎりまこと)は、自分を中卒だと笑い捨てた周囲を見返すべく、高校受験に失敗した妹の真彩(まあや)と共に人種のルツボ“通信制高校"に入学する。
そして入学式当日、見目麗しきお嬢様・逢澤莉央(あいざわりお)と劇的な出会いを果たす―――。
『ドットインベーダー』の著者、熱描!
ムキダシのリアル青春ラブコメ、待望の第1集!!
この表紙絵とタイトルからラノベ風味だと思われそうですが、内容はシリアスです。
主人公の片桐真実(まこと)は、亡くなった母親と刑務所に入っている父親の代わりに、中卒ですぐ工場に働きながら3つ年下の妹・真彩(まあや)の保護者役をしています。
「学歴(がく)がなくても俺はやれる
大丈夫だ…」
と言う真実ですが、職場に大学新卒で入ってきた後輩がいきなり上司となり、自分の状況を哀れみ笑われたことに激怒。
底辺高校にまさかの不合格となった妹とともに、18歳の春から通信制高校に通い始めます。
普通に進学していた同級生が高校を卒業するタイミングですね。
工場勤務も続けつつ、週に数日のスクーリング(登校)と課題提出をすることで数年後に高校卒業証書を得られます。
その入学式に、ヒロインの逢澤莉央(あいざわりお)と出会います。
いきなりの突風からのパンチラ(いや、パンモロか)という、青少年誌のお約束的な出会いですが!
明らかに上流家庭のお嬢様な莉央と、莉央につき従いつつ周囲に警戒する新(あらた)、シングルマザーで子連れ登校する20歳の若葉、76歳で松井さんなど、通信高校の同級生は年齢も経歴も多種多様。
今までと違う人間関係の中、そして莉央との出会いで、かたくなだった真実に次第に変化が…。
という青春ラブストーリーです。
通信制高校は卒業が難しい?
作中でも描かれていますが、通信制高校は中学校卒業の資格があれば、年齢不問で誰でも入学できます。
しかし、卒業するのは難しい。
ほとんどの生徒が仕事をしながら課題をこなして、自由時間を削って登校します。
また、仕事をしていなくても、心身上の事情などで普通高校に進学できなかった人は、登校や課題提出自体が難しかったりします。
そのしんどさや高卒の資格を得るモチベーションの維持の難しさから、中途退学になってしまう人が多いのです。
わたしも小学校高学年から長期不登校になり、中学校はほとんど通わずに卒業しましたが、自分は通信制は向いていないことがわかっていたので入学しませんでした。
進研ゼミの課題も全然提出しないで1年以上も溜めてしまってましたからね…。
1人で自宅でコツコツというのは、毎日学校に行くより難しい部分があるのです。
フリースクールの友達にも何人か通信制高校に入った人がいましたが、4年かけて卒業まで行き着いた人は少なかったです。
わたしの上の弟は既に就職して真実のように通信制に行き、みごと卒業までしましたが、それは彼の継続する力の強さのたまものです。
なんでも飛びついてすぐ飽きる姉と違い、弟は一度決めたらずっとやり抜くタイプでした。
作中でもモチベーションを維持する為に、同級性が何人か学外で集まって課題に取り組む場面があります。
その中で莉央の大邸宅に入り、生まれ育ちの差を実感したりするのですが……莉央にもまた、通信制高校に入学せざるを得なかった事情はあったのでした。
そのあたりの通信制高校の様子がとてもリアルな作品なのですが、後書きを見るとなるほど作者ご自身が通信制高校の出身とのことです。
以前ご紹介した「学校へ行けない僕と9人の先生 (作・棚園 正一)」のように、自身の体験をバックボーンとした一般的ではない学校生活を描いたマンガが読めるのは時代が進んだ感があります。
「学歴(がく)がないから」という真実のコンプレックス
主人公の真実はよく「学歴(がく)がないから」と口にします。
「学歴がなくても」
「学歴がないから仕事を任せられなかった」
「学歴がないからって」
「実際 中卒の人間なんてろくでもねぇんだよ…」
「工場勤務がお嬢様相手にして」
たいていキレてますね。そしてケンカになります。
けっして不良タイプではなくケンカも弱いけれど、そこが彼の地雷になっています。
たしかに、ほとんどの人が高校卒業は当然となっている時代、中卒というのは珍しくもあり、「ワケあり」と見られる部分でもあります。
求人情報でも「学歴:高校卒業以上」というのは、一般的には高学歴を求めていませんよという要項なのに、そこでシャットアウトされた気持ちにもなります。
しかし、そこにコンプレックスが固まり地雷源になっているのは、彼自身が「本来ならこうではなかった」ということに執着があるからでしょう。
母親が早くに亡くなり、父親は犯罪を犯して投獄中。
妹の真彩の為にと自分で決めて進んだ道ですが、周りに言われるように地頭が良い彼は、工場に出勤する途中で学生服を着た同学年の子たちを見ながら何を感じていたのか…。
実は、厳しめの工場の社長も彼のことをしっかり見守っていて、ちゃんと登校もできる。
質素ではあるけれど、生活も困窮しているわけではない。
それなりに恵まれた条件ではあるのです。
しかし、彼は叫ぶ。
そんなこと 気にしてる俺はおかしいか?
この程度で自分を可哀想がって おかしいか?
仕事があるだけ有難いと思えってのか
家があるだけ恵まれてるって!?散っ々言われて来てんだよ
「もっと不幸な人間いっぱいいるんだから」
って!!
知らねぇよ!!!
これは俺の苦しみだ
俺の持ち物だ!
持ってねぇ奴がごちゃごちゃうるせぇよ!!
2巻のクライマックス、莉央の前で叫ぶ真実の言葉です。
ここからの展開、泣ける。
中卒オカンはいつか高校生になるか
わたしは高校卒業の資格を必要とすることがなく、これまで特に進学を考えたことがありません。
中卒後に一応独学で大検(今の高卒認定試験)も2回受けて、あと理数系の2科目を残すだけだったんですけどね。
そのまま劇団に就職して、以降仕事は変わりながらも学歴が要りませんでした。
取った科目単位は失効しませんので、いつか、必要が出たら定時制高校に行くかも知れないととっておいています。通信制は向いてないので。
ネタとしては、息子が高校生になる頃に高校入学してみたいですけどね。
ネタの為にそこまで時間は提供できないかな。
そう、わたしは特に中卒だからって感情的にわだかまることがないのです。
「中卒ですが何か?」
みたいな。
学校に行けなくなる直前まで優等生だったせいか、今もよく
「ええ? 中卒には見えなかった」
と言われます。それもまぁ一種の偏見ではあるのですが。
たぶん、わたしの場合は、早々と学歴に対する思い込みを捨ててしまったことと、20歳で親元を離れてからどうにかこうにか働いて生きてきたことが裏打ちになっていそうです。
青春群像劇として楽しめます
コンプレックスがあるのは真実だけではありません。
お嬢様の莉央もシングルマザーの若葉も、重たい事情を抱えています。
それでもこの作品は、青春時代を過ごすキャラクターたちの姿を今様の絵柄で描いており、ストーリーを文字にした時に感じるような泥臭さはありません。
水着シーンとか、シャツがビショ濡れになってブラが透けて…とか、普通に青少年誌的サービスカットもあります。
三角関係とか、既読スルーのすれ違いなどは普通に純愛系ラブコメですね。
高校、大学、そして就職へと一般的なルートを歩んでいる・歩んできた人にも楽しめます。
新刊6巻はシングルマザー若葉に注目。
高校時代の回想シーンが入ってきます。
相手と思わしき男も登場し、なぜ若葉がシングルの道を選んだのかが明らかになりそう。
まとめて読むなら電子書籍がお得です。
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