Far Roads to Lord 冒険記録集

タンスとネズミ

date:'00/11/26   GM:李


 大旗戦争が過ぎ去って早くも10年という月日が流れた。恐らく平和になった王の道を旅する一行は、ちょっとした好奇心からギュノロンの脇道に入ってパダゴという村へと向かっていく。  そこで織りなされた大旗戦争の燃えかす。鬼と魔導師が仕掛けた猫と鼠の物語を、さあさ聞きませ召し上がりませ。

村の入り口で、一人の男性がタンスを前にして途方に暮れて困っていました。
「おやおやどうしました?」
「このタンスを運んでいた若い奴らが居なくなっちまったんだ。全く最近の若い奴はなっちゃいねえ」
 よくよくタンスを見ると5cmぐらいの穴が開いていて、扉が開きません。それを修理に出しに男はこの村へと来たのだそうです。
 実は力自慢が巨人族の女の子ヲロ一人というのですからタンスを運ぼうにも運び手になりそうなのも居ません。しかし、運んでくれたら手伝い賃が出ると聞いて一念発起、男の細腕(体力が8)を奮ってヲロの手伝いにリュークが立ち上がります。実は彼だけがお金らしい物を持っていない一文無しだったのです。
 タンスを職人の家に運び込むと、二人は手伝ったお礼にと銅貨を貰いました。力持ちのヲロは10枚、力無しのリュークは5枚を貰いました。
 職人の家の中は鼠の気配がします。これは不用心だとリュークはその家に泊めて貰うことにしました。

 酒場で飲んでいたゴ、ラウニィ、ユイは酔っぱらった禿げ親父が入るのに気付きました。
「全く、家のドラ息子は何処にいやがるんだ。最近の若い奴はなっちゃいねえ」
 ここでも若い奴はなっちゃいないと言っています。ラウニィ達が聞いてみますと、禿げ親父(名をポーズと言うのですが)ポーズの息子コーズがタンスを受け取りに行ったらそれっきり帰ってこないと言うのです。取りに行った筈のタンスも来ないのでこれはどうした事だと、ポーズは怒っていたのです。
 足取りがおぼつかないポーズを連れて帰らせますと、そのまま宿屋に向かってラウニィとユイは眠ってしまいました。ヲロとゴは慣れないからと言う理由で外で野宿をしました。この二人にはいつもの事だったので別に変だとも辛いとも思わなかったのです。

 翌朝、リュークが目を覚ますと、世界が大きくなっていました。手を見ると獣の手になっています。おずおずとお尻に手をやるとしっぽまで生えています。
「ちゅー!!」
 リュークはガルパニ信者らしく赤い、何と鼠になっていました。
 すると奥の方から男性が起きてきて、鼠になったリュークに気付いてしまいました。
 リュークは何とか、部屋の隅へと逃げ込みます。するとそこに一匹の黄色い鼠が居ました。話を聞いてみると何とそれは行方不明だと言われていたここの息子コーズだったのです。
 どんどんお腹が空いてきた二人は、ついに安全な場所から飛び出して朝食を囓り始めます。

 表で寝ていたヲロも大きな青鼠に成っていました。
 ユイ達は美味しい朝食を食べて、いざ外に出ると何と其処には大きな青鼠が居たのです。鼠嫌いなユイは気分が悪くなります。手に持っていた杖で青鼠をこづき始めました。運良くか悪くか、その攻撃は青鼠に当たり青鼠は半死半生になってしまいました。
 逃げ去っていく青鼠を後に、ユイとラウニィはゴも連れてポーズの家へと行ってみることにしました。
 ポーズの家にいるはずだったリュークはおらず、代わりに朝食を食べている赤鼠と黄鼠がそこにいたのです。
「あつかましい奴だシッシ!」
 ゴが鼠を追い立てます。二匹の鼠はコリャたまらんとタンスの穴の中へと逃げ込んでしまいました。
 タンスの中に入った二匹の鼠は、そこで妖精と出会います。
「だれチュ?」
「タンスです。鼠は出ていって下さい」
 そう言ってしくしく泣いています。聞いてみると多くの鼠がこのタンスをトイレ代わりに使っていたというのです。それも黒くて、角の生えた鼠が沢山。
「僕らは、そう言った悪い鼠じゃあないっチュ」
「鼠はみんなそう言います」
 タンスはそう言って鼠の言う事を取り合ってくれません。

 外では中にいる鼠を追い出そうと、ゴとユイは二人がかりでタンスをゆさ振り始めました。中にいる鼠はたまったものではありません。最初は中にあった多量のフンがぽろぽろと出てきたのですが、ついには堪らなくなった黄鼠コーズが、そして赤鼠のリュークが相次いで落ちてきました。
 二匹は何とか部屋の隅へと逃げ、薄く開いた窓から外へと飛び出したのです。
 外には大きな青鼠が居ました。話を聞くと、何とヲロが変わり果てた姿で居たのです。そんな三匹の所に片目の赤猫がやってきました。
「僕らは鼠じゃあ無いっチュ」
 何処からどう見ても赤鼠のリュークが言います。猫は三匹に分かる言葉で喋りかけてきました。
「ああ、知っている。お前達はタンスの魔法にかかってしまったのだ」
 片目の赤猫が言うには、何とあのタンスはデュラの悪い魔法使いが変身に使っていた物だったのです。魔法使いは猫に、そうでない者は鼠へと変える魔法がかかっていたのです。
 今でもデュラの魔法使いは猫になっており、鬼族も鼠のままだというのです。
「どうしたら良いっチュか?」
 リュークが聞くと、魔法使いの片目猫はタンスを壊してしまえば良いと答えます。そうすれば魔法が解けて元の姿に戻るだろうと言うのです。

 まだタンスを振っていたゴとユイはしばらくして下を見ると、山になった鼠の大量のフンと、転がり落ちてきた妖精を発見しました。
 タンスの妖精も又、昔の魔法使いのせいでこうなってしまったと、ゴ達に伝えます。
「じゃあ、壊してしまえば良いんだな」
 ゴがそう結論付けるとタンスは猛反対しました。
「それじゃあ、タンスは壊れちゃいます。壊れるのはイヤです」
「大きな目的のためには小さな犠牲は付き物なんだ。だから大人しく壊れなさい」
「イヤです」
「じゃあ間を取って魔法的な力の込められた装飾を削り取るだけならいいかな?」
「痛くしないならイイです」
 ラウニィの提案があって、ようやく魔法の込められた装飾を削ることが出来るようになりました。

 早速削り取ろうとしたのですが、ポーズの親父がタンスの修理にとりかかりはじめました。これではタンスの装飾を勝手に削ることが出来ません。タンスを買い取ろうにも高値でふっかけられて買い取ることも出来ない有様です。
「仕方がない」
 そう言って、ゴは奥の部屋で服を脱いで虎に変身しました。これでポーズ達を驚かしてその間に装飾を削り取ろうというのです。
「うひゃああ」
 上手いことポーズの親父は目を回して気絶してしまいました。これ幸いとその隙にラウニィがタンスの装飾をガリガリと削り取ります。タンスの妖精は痛い痛いと言うのですが、仕方がありません。
 装飾が取れると、今まで鼠だった者が元の人間になっていました。コーズとリュークは喜んで家の中へと入っていきます。ヲロだけは家が体のサイズに合わないので外にいました。
 ふと気になってヲロは魔法使いがどうしているかと思い、辺りを探してみます。
 すると、仰向けになってのど首をかき切られた男の死体が草むらにあったのです。
 周りを見渡すと目が5対、ヲロを取り囲むようにして光っていました。鼻息、気配、そして匂い。それら全てが一つの存在を示していたのです。
「鬼が!-----」
 ヲロの声はそこでかき消されました。投げられた多数の斧はわずかな間に死の床へと蹴落とします。
 その声は家の中の面々に、衝撃と共に伝わりました。
「ここは!」
 扉を蹴って、ユイとリュークが飛び出します。待ちかまえていた鬼達は一斉に斧を扉へと放り投げます。
 一瞬にして無駄と悟ったリュークは、家の中へと逃げ込みました。
 しかし、終始剣の使い手であるユイは鬼を恐れず、無明の中、一気に間合いを詰めて必殺の一撃を横薙ぎに放ちました。確かな手応えを感じ、すねを払われた相手は黒い草の上に転んでしまったようです。
 その場所に六本の鬼の斧が投げ込まれました。全て闇の中で青黒くキラッキラッと光り、幾本はそのまま黒い地面へと吸い込まれ、また幾本はユイの身体に突き刺さりました。暖かい血が大量に流れ出てユイも又メディートの御前に突き飛ばされたのです。

「ここはもうダメだ逃げるぞ」
 ゴが裏に通じる小さな窓から逃げ出し始めます。皆何も持たずに、誰も連れずに逃げ出し始めました。そうでなければ生き延びれなかったからです。背中に燃え上がる家の熱を感じて命からがらラウニィ、ゴ、リューク、コーズの四人は村から逃げ出したのです。

 その後の噂でパダゴの村は鬼によって滅ぼされたと聞きました。

おしまい

旅人の記録
名前性別種族・出身
ゴ・ジューニバン男性40才虎人出身で、大旗戦争の頃は森の中で虎になっていたという。
ユン・ユイ男性28才人間族で父は学士の家に生まれる。
ラウニィ女性28才人間族で父は農夫の家に生まれる。
リューク男性23才人間族で父は職人の家に生まれる。
ヲロ女性35才巨人族は南西諸島の生まれ、思春期真っ盛り


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