住所不定、スケジュール未定な生活を続けていると、友人と約束をしてTRPGを遊ぶ機会がめっきり減ります。それでもやっぱり遊びたいもので、休日に近所で当日参加OKのコンベンションなどあると、早起きして出かけていくこともあるのです。
そして、そんなときはGMをしようと、ルール一式(たいていFar Roads to Lord)とシナリオブックを持っていきます。
プレイヤーもGMも当日参加で開催されるフリーコンベンションは、まず開会式にGM希望者の自己紹介タイムがあります。そこで自分が持ってきたルールや、シナリオの紹介、希望プレイヤー人数、キャラクターのレベルなどを説明、質疑応答の後に、プレイヤーがGMを選択する形式で、卓の振り分けが行われます。
主催者によってその方法は違います。用紙に各参加者が参加希望卓の第一希望から第三希望を記入して出すとスタッフが振り分けてくれるものから、挙手式で希望者が多いところはじゃんけんとか、早い者勝ちの席取り合戦というものもあります。どちらにしろ、たいていは選ぶのはプレイヤーの側です。
いくら「TRPGはGMとプレイヤーが協力しあって楽しむもので、GMは提供者(奉仕者)ではない」と正論を言ってみたところで、このときはGMが好みによって選ばれるシビアな時間です。誰も卓に来てくれなかったら、持ってきた重たいルール一式もむなしく、プレイヤーになるしかないのです。これは始めからプレイヤーをしに来たときよりもずっと悲しい。
他のGM希望者よりも印象に残って、「この人の卓に行ってみたい」と思わせる。何かに似ていると思ったら、プレゼンテーションと同じなのです。企業が開発した製品をアピールしたりするやつです。いや、わたしはそういう場にいたことがないので、イメージですけれど。たぶん、バリバリにプレゼンで活躍する人なんかは、コンベンションのGM紹介を見ていたらはがゆくなるんじゃないでしょうか。ぼそぼそと自信なさそうにしゃべったり、不安なところばかり言ったり、言い訳がましかったりしている人が多いですから。
「昨日は寝ていません」、「シナリオは適当です」そんなこと自己紹介で言ったら、面白いものだって人は来ません。
それと、「ロールプレイ重視なので戦闘していれば幸せという人は来ないでください」、「マナーやモラルがなく、他人に配慮できない人は来ないでください」というようなことを、けっこうな数の人が言うのです。GM紹介タイムで、「~な人は来ないでください」が5人続いたときは、ちゃぶ台でもひっくり返したくなりました。「ロールプレイ重視です。ロールプレイ好きな人来て下さい」これでいいじゃないですか。
そんなわけで、楽しい一日の分かれ目となるGM自己紹介タイムはたいへん緊張します。他の人がしゃべっている間もずっと一列横並びで参加者の前で待つときなんかは、どんな顔をしていたらいいのかとそわそわしてしまいます。うまい人は会場に笑いを起こすような冗談を取り混ぜたりするので、いっしょになってあははと笑ってればいいのですが、「今週もサービス、サービスぅ♪」と会場中に引き潮が起こるようなことを言われるといたたまれません。
以前、GMは女性のみ・プレイヤーは男女混合(圧倒的に男性)というイベントでGMをしたときのことです。GM自己紹介時に熱心にメモをとっている男性がいました。後にその人がわたしの卓に来たので、休憩中にメモを見せてもらいました。それは全GMの採点表でした。ワールド紹介、シナリオ紹介など5つの項目で○、△、×で採点されていました。わたしの減点ポイントはシステム紹介でした。これは「嫌な奴」に違いありませんが、そんな目で見ている人もいるのです。緊張しない方法があったら教えてほしいものです。
緊張しつつ待っていると、ついに自分の番が回ってきます。
声を出すときは、会場の一番後ろの人たちを意識します。そこを意識するだけでも、声の通りは違うものです。劇団で新人の頃に練習したことがあります。声はむやみに大きくしても拡散するだけで、相手に届けようという意志がいるのだそうです。
緊張していると発声が胸とかノドとか上の方に上がって、聞いていても苦しい声になるので、おへその下あたりを意識します。これも劇団で習ったことですが、俳優じゃないので腹式発声が身についているかは疑問。とにかく意識するだけです。
内容はたとえば、「Far Roads to Lord」でラムザスを舞台にしたシナリオのときはこんな感じ。
「おはようございます!(ひと呼吸)
今日はFar Roads to Lordを持ってきました、北海道出身のうらべです。
Far Roads to Lordは、国産ファンタジーRPGでは老舗の「Roads to Lord」シリーズの末っ子です。背景世界のユルセルームは、ハイ・ファンタジーやエピックファンタジーとも言われますが、ちょっと幻想的で外国の児童文学のようなイメージです。
Fローズは、カードやランダム性を盛り込んでいて、堅苦しくなくゲームとして楽しめるところが気に入っています。
今日準備してきたシナリオはラムザスという草原の国を舞台にしています。さっき北海道出身と言いましたが、わたしがいた町は国道沿いに馬が走り回っているようなところでした。そんな草原の空気が感じられるセッションになったらいいなと思います。
プレイヤーは四人まで。初心者歓迎です。この機会にユルセルームで遊んでみてください。
わたしは年に数回くらいしかTRPGをする機会がないので、今日はいいセッションにしてあげたいし、いいセッションにして欲しいと思います。よろしくお願いします」
もちろん、こんなことをすらすらと言えるわけじゃなく、つっかかったり言葉を探したりもします。でも、自分がこのゲームを好きなこと、この日を楽しみたいことは、きっちり伝えたいと意識しています。自分がプレイヤーをするときだって、楽しもうとしているGMに惹かれますからね。
北海道出身は、別に言わなくてもいいことです。ふだん劇団で主催者の人たちと自己紹介をするときに「音響効果を担当します、北海道出身のうらべです」と言っているのでくせになっていたのです。でも、同じ出身地の人から声をかけられたりもするし、「北海道」という地名はなにかインパクトがあるようなので、たまに使っています。
ちなみに、「いいセッションにしてあげたいし、してほしい」というのは、プロレスラーの三沢光晴選手がタイトル戦前に言った言葉のパクリです。尊敬している人の良い言葉があったら転用するのもひとつの手です。尊敬していますから許してください、三沢選手。
さて、上の自己紹介はわたしがFローズの紹介をするときのものです。主にシステムの魅力について訴えています。これが他のRPGで、シナリオがメルヘン調なら、「遊佐未森さんや不思議の国のアリス、モモのイメージでつくりました」とシナリオのフレーバーを語ります。短い時間のことですから、何を一番伝えたいのかをピックアップしておくのは大事なことです。
もちろん、GMの自己紹介というのは始まりに過ぎません。本編のセッションハンドリングが下手だったり、シナリオが自分勝手だったら次回にはそのときの参加者が来ないでしょう。
でも、基本的にオープンなコンベンションは一期一会。GMで参加するなら、どんな風にアピールをするかを考えることから一日を楽しんでみてください。
レポート:2001/03/11