TRPG Note


急ごしらえのゲーム・マスター

1.ことのはじまりは安請け合い

 ある日、ある晩、友人から一本の電話がかかってきた。
「DDR仲間とTRPGやりたいんだけど、うらべさんマスターやってくれない?」
話しを聞くと、その仲間たちはTRPGの経験は多少あるものの、いっしょに卓を囲んだことがないらしい。そのうえ、TRPGをしたことがない人もいるらしい。しかも、わたしが全然しらない人たち。
「北海道公演から帰ってきてから、次の仕事に行くまでの間ならいいよ。11月のはじめくらい」
安請け合いがすらりと口から出た。なにしろわたしは頼まれると調子にのってしまう。いいじゃん、面白そうじゃん、しばらくGMもやっていなかったし、いっちょう挑戦してみましょうか。

2.さてシステムは何にしようか?

 さて、その約束から一カ月が過ぎ、わたしも北海道から帰ってきた。旅の荷物をほどいたり、劇団の新聞を編集にかかったりと大忙し。セッション日と新聞発行日が重なって、午後一時から午後六時くらいまでしか出かけられなさそう。約束まではあと一週間。大丈夫かなあ。
そうは言っても考え始めなきゃ。まずは何を持っていくか考えなくては。
 わたしが得意なのは「Far Roads to Lord」。これなら手持ちのシナリオもたくさんあるし、ルールも覚えている。だけど、一式持っていくのが重たいんだなぁ。それに、プレイヤーが5人以上だとわたしがさばけなくなるし。
 TRPG初心者がいるのなら、現実世界に近い方がいいのかな。でも「トーキョーN◎VA」系は、ちゃんと読んでいないから今からシナリオ組むのは難しそう。
 他にも「ギア・アンティーク」や「深淵」も考えた。でも、やっぱりルールを覚え直す時間はなさそう。「ウィッチ・クエスト」も好きだけど、初めての人(男性)はロールプレイが引いちゃうかも。
 結局、持ち運びに軽くて、オーソドックスなファンタジー世界で、ルールが簡単な「モンスターメーカーRPG」(富士見書房)を選んだ。これならわたしの得意なカードも使える。GMしたこともあるし、ルールはやれば思い出すだろう。システムを決めてシナリオ作成にかかったのは、当日の三日前。

3.ランダム・シナリオメーカー

 このゲームでGMしたのは、バレンタインに開かれた女性GMオンリーコンの時以来。そのシナリオは、「女性GMならでは」を狙ったベタ甘のメルヘン調だった。アリスとエンデと谷山浩子と遊佐未森のイメージ。年齢層高めの男性陣を相手にこれをやるのはできないなぁ。
 急にシナリオをつくるときにお役に立つのが「RPGシナリオメーカー~6つの世界の物語」(マイクロデザイン出版局)。ファンタジー、時代劇、ホラーなど6つの世界観を表現するルールと、シナリオのランダム作成チャートが載っている。
わたしはこれを使ってシナリオをつくるのが好きで、ユルセルーム用やモンスターメーカー用のシートも自作していた。今になって役に立つなんて。
 ダイスをコロコロ………「護衛」型ミッションか。「人物」の依頼で「人物」自身をある期間護衛する。その真相は「依頼自体が冒険者を縛りつけておくためのものだった」。なかなか面白そうじゃない。
で、その「人物」は………(コロコロ)「オーク」!
 なんでオークがヒューマンに護衛を依頼しなきゃならないんだ?
振り直しをしたら「盲目の女魔術師ヴィシュナス」で、これならまとも。でも………オークが護衛を依頼するシナリオって、挑戦してみたいかも。

4.オークはヒューマンに護衛を依頼するか?

 世界観の参考資料が少ないので、ネット上で詳しい人に聞いてみよう。
あらゆる市販ルールの雑談所があるsfさんのサイトに、モンスターメーカーRPG雑談所がある。あと二日しかないけど、あそこなら誰か情報を寄せてくれるかもしれない。
 仕事が大詰めを迎えて、中一日は何もできなかった。そしてセッション前日。
 モンスターメーカーRPG雑談所では、わたしの質問に思った以上の方々が答えてくださった。それも、オークとヒューマンの関係だけではなく、「こんなシナリオを考えてみた」というものがいくつも。覆面をかぶって人間のふりをするオークの娘。オーク族の異端者で人間との共存をのぞんでいる。そんなアイディアをシナリオづくりのきっかけにいただいた。他にもいつか使ってみたいネタがたくさんあって、本当にありがたかった。
 よし、ヒューマンのふりをして依頼するオークの娘をだそう。そこから、「なぜ?」「だれが?」「なにから?」などの疑問を埋めていく。
ふと見つけた魔法リストの中の「ライブラリ」という魔法が、他のイメージをひっぱりだしてきた。背景ストーリーの骨格ができてきたぞ。

5.プロットからチャート、そして肉付け

 だいたいの展開ができたら、簡単なフローチャートを書いてみる。ゲームブックやボードゲームづくりから入ってきたわたしの癖のひとつ。

 シナリオを書くのはいつもレポート用紙。いくらパソコンが得意になってもこれだけは手書きの方が進む。適当に落書きなんかしながら書くのがいいんだな。
 舞台、時期、NPC、の設定。導入から始まる章立てしたメモ書きをつくる。
 一番頭を悩ませるのは洞窟の地図。基本はダンジョンを抜ける冒険だから、それ自体が面白くなくちゃ。でも、ダンジョンって単調になりがち。サプリメント「テン・ダンジョン」を参考にしながら小さめの地図を書く。入り口と出口のあたりだけ書いて、あとは眠ることにした。

6.そしてセッション当日

 セッション当日。それでも仕事はあるんだな。午前中は印刷機をまわす仕事。その横でせっせとダンジョンづくり。
ダンジョン内でヒューマンとオークの追いかけっこをしよう。カードゲームの「モンスターメーカー」を使うミニゲームをつくる。登場するキャラやモンスターのカードを出しやすいように別に取り分けておく。
真実の樹は、「K・スギャーマ博士の植物図鑑」という絵本からきれいなイラストを一枚選んでカラーコピーした。色鉛筆のタッチがやわらかくて、ファンタジーの雰囲気いっぱいの本なのだ。
 午後から出かけて新宿で待ち合わせ、イエローサブマリンのハイパーアリーナへ。ここに来るのは初めてだけど、カードゲームやってる卓がほとんどだった。プレイヤーは友人ふくむ5人。そのうち初対面の人が3人。まずはプレイヤーの自己紹介から始まった。

7.こんな話しになりました

 PCは、やたら長い名前のドワーフ、女魔術師のハーフシャーズ、オークのマスクマン、エルフのイリュージョン魔術師、お調子者の人間魔術師という面々。
やたら魔術師が多いのは、「知覚力と精神力が10以上なければ魔術師にはなれない」というルールをわたしが見落としていたせい。やたら異種族が多かったのは、種族を自由に決めて良いとわたしが言っちゃったせい。ちょっと甘かったな。まぁ言ってしまったことは仕方ない。ちなみにキャラメイクで1時間半。自由に決める設定が多い分、こだわって迷ったよう。予定より少し遅れてしまった。

 彼ら5人は最初から知り合いとする。魔術師三人が港町で学院に行くと受付嬢と覆面をした巡礼者のような装束の娘が言い合いをしている。どうやら娘の依頼を受付が人手不足を理由に断っているようだ。若い人間魔術師が娘に声をかけて酒場で話しを聞く。
彼女の名はジェンナ。一族の真実をつきとめるため洞窟を抜けるまで護衛を依頼する。「どうか助けてください。よろしくお願いいたします」
その輝くまなざしと、金貨20枚の入った袋に、彼は仲間の了承を得ずに引き受けた。(その上、仲間には半分しか渡さなかった)

 一行は彼女の村リーゴルへ。なぜか二つの門が並んでいる村の入り口。道を進むと、オークの群が彼らを囲む。ジェンナが覆面を取る。「おら、今帰っただ」夢やぶれる人間魔術師。「こっからは割り切って仕事しようか」
 ジェンナはオークの族長の娘だった。彼女の説明によると、この村にはヒューマンとオークがほぼ同じくらい住んでいて、とても仲が悪いのだという。自分は村の外に出て教育を受けたけれど、帰ってきてあまりの争いにヘキエキした。いずれ族長を継いでいったときにこんな争いは終わりにしたいので、真実をつきとめたい。洞窟の向こうには真実の樹があって、調停の魔術師が残したこの村の記録があるらしい。
 一行は川の向こうに住むヒューマンの意見も聞きたいと思った。3人の魔術師が夜中に起き出して、橋の壊された川へ。3mの幅跳びは簡単だった、簡単なはずだった。だがしかし、ゾロ目がゾロ目が呼んでハプニング続出!3人はもつれあって、川に落ちてしまう。流される人間魔術師をハーフシャーズ娘が木のつるを伸ばす魔法を使って救出する。騒ぎでかけつけたヒューマンとオークたちは川をはさんでにらみあい、一触即発。事情を聞いたジェンナの取りなしで、その場はことなきを得た。

 次の日、一行は洞窟へ。大ネズミをチャームで切り抜け、さびて開かない扉は別の小部屋で見つけた油をさして開ける。明らかに人工の洞窟に入っていく。魔法の灯火には調停の魔術師として有名なエクレクスの名が刻まれていた。
 洞窟の通路で「いたぞー!」と叫ぶ声。見れば排オーク派の急先棒マークスと仲間たちが追いかけてくる。くねくねとした洞窟の通路を追いかけっこする。なんとか先にたどりついた扉は、ヒューマンとオークが協力しなければ開かない。マスクマンオークと人間魔術師が手をふれると扉はやすやすと開いた。最後の部屋では巨大コブラと対決。しばしの戦闘の末、エルフ魔術師のスリープで蛇は眠りについた。

 洞窟を抜けると、谷間の日差しを浴びて大きな美しい樹が立っていた。ライブラリの魔法によって刻まれた記録を三人の魔術師が読み上げる。

 かつてこの地にオークとヒューマンがやってきた。両者は力を合わせてこの地を開墾した。オークの力強さ、人間の技術がお互いを助け合い、この地はやがて村になっていった。しかし、両者はやがてささいなことをきっかけにいさかいを始めた。争いの火種は大きくなり、この村で生まれ育ったわたしは、両者の間に立ち、和解の上で川を境界線として住み分けをするように調停した。そうしてオークとヒューマンは再び共存するようになったのである。だがしかし……。
ある日、ヒューマンの子どもが川の向こうから赤い実をとってきた。オークの子どもが川の向こうから黄色い実をとってきた。大人たちは、「もしかして自分たちの方が損な領土に住んでいるのではないか?」と疑念を抱き、再びオークとヒューマンはいさかいを始めるようになった。

 エクレクスの記述は、再び両者が力を合わせてこの記録を読むことを願って閉じられていた。自分達は余計なことをしてしまったのでは、とつぶやく冒険者たち。
 大きな声に振り返ると、目覚めたコブラと追っ手のマークスたちが戦っている。冒険者は彼らに手を貸して、コブラを倒した。マークスたちの前で、もう一度ライブラリを開き、読んで聞かせる。マークスは「けっ、ばかばかしい」と不機嫌そうにつぶやき、帰っていった。
ジェンナは、これをきっかけにふたたびオークとヒューマンが共存して暮らせるように改革をしていくという。彼女自身も、どちらかが不当に侵略したわけではないことがわかり、ホッとしたような表情だった。
冒険者たちは帰りがけに、川をはさんで子どもたちが石を投げつけ合っているのを目にする。洞窟から帰ってきたマークスたちがその側を通りがかると、「やめねえか」と子どもの頭をポカリと叩き首根っこをつかんで連れて行った。やはり不機嫌そうに。
ジェンナからの感謝とともに報酬をもらう。前金を独り占めしていたことがバレたお調子者の人間魔術師は、仲間たちに詰め寄られるのだった。

8.セッションを終えて

 セッション終了は午後6時頃。間に合わせるために途中、ひとつの部屋と、ひとつの戦闘を削除しました。
友人は「きれいな話しをつくったね」と一言。TRPG初心者の人も、お調子者の人間魔術師としてずいぶん活躍してくれた。基本的にコンピュータRPGで、オークやエルフといったファンタジー用語がわかるのが昔とは違うところ。もともと会話のセンスがいい人で、テンポよくロールプレイしていた。他のメンバーも、心配していたよりずっといい関係でロールプレイができて、楽しみながらも話しが進んでいった。
 なにしろ、今回は時間がない。七時までにまた職場に戻らなくては。残念ながら感想を話しながらの食事はできなかったけど、わたしも楽しかったし、たぶん彼らも楽しんでくれたんじゃないかな。帰りの電車に乗りながら、久しぶりにGMの楽しさを噛みしめることができたセッションでした。

感謝

友人・高倉氏
モンスターメーカーRPG雑談所の皆様
助言者・やしち氏

セッション日:2000/11/03  レポート:2000/11/05


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